自転車の楽しさを感じながら身体を鍛えていく、その楽しさにはいろいろある。


本格的に自転車競技に取り組む前に

中学卒業までは多様な運動で基礎的な運動能力を高めていきましょう

中学卒業までは、基礎的な運動能力を高めるために、自転車だけに特化するのではなく、主として屋外での遊びやクラブ活動などを通して、様々な運動を経験してもらいたいと思っています。
自転車も、その多くの経験の中の一つという位置づけで取り組んでいただければ十分です。早くから勝つことに囚われることも拘ることも必要ありません。 楽しいと思って続けられる範囲で取り組んでいただければよいと考えています。 この時期に様々な運動能力(自由な身体の使い方)を身につけておくことは、これから先、自転車競技に専門的に取り組んでいくうえで、大切な基礎となります。 この基礎となる部分を幅広く養っていれば、その上にはより多くのものをより高く積み上げていくことができます。 この底辺が狭ければ、その先に積み上げられるものは、もう、それなりでしかなくなります。 この時期の子供は成長期です。身体だけでなく、心の成長もその最中にあります。 心と身体をバランスよく、ゆとりを持って大きく育てることが大切だと考えています。

焦らずゆっくり成長を待ちましょう

手助けすることは簡単です。待つことは大変です。しかし待つことで成長できることもあります。 自分(菊池仁志)が組んだ毎日のトレーニングメニューは、狙いのレースで最高の調子に仕上げるためのものです。そのため、その過程ではそれほど調子の出ないレースもあります。焦らず成長を待つことがどれほど大変か、子供の成長を見守る親御さんにとっては、思いもよらない苦痛かもしれません。思うような動きにならないときもあり、指導者も、常に自問自答の日々です。それは現役競輪選手のときに感じたこととまったく同じ気持ちです。

社会性も徐々に身につけていきましょう

競技者として強くなっていくためには、コミュニケーション能力も必要になってきます。チーム戦では、チームメンバーとの話し合いが重要です。 中学生になったら、少しずつ、自分の意見をきちんと伝えることができるように、そして、相手を尊重して相手の話を聞けるように、仲間や周囲の人達と話し合いができるようにしていきましょう。 まずは、恥ずかしがらずに、きちんと声出しして、学校や近所の人、お友達に挨拶することから始めてみましょう。

日常生活を見直す

子供の心と身体の健康を育むのは、教育の場だけではありません。成長の土台になるのが、日常生活です。この食生活を含めた、日頃の生活態度をおろそかにしていては、健全な成長は望めません。 家の手伝いをする、自分のことは自分でする、規則正しい生活をする、きちんとした食事をする、このような当たり前の日常を大切にしてください。 親御さんが競技力向上のために一番協力できるところは、日頃の生活態度の見直しと、そのサポートです。暖かく、そして時には厳しく見守ってあげてください。

自転車競技に特化して強化を始めるのは高校生になってから

中学卒業までは、自転車という道具を扱うための基本ができるようになることを重点的に、楽しく自転車を続けつつ、少しずつ競技に慣れていけるような内容を意識して指導していきます。 高校生になったら、本格的な指導を開始します。

高校生になると何が違うのか?

中学生の時は、まだ全国的に自転車競技人数も少なく、親御さんたちが熱心にやっていれば、全国でトップクラスになることもそう難しくはありません。 それが、高校に入ると、いろいろな競技から自転車競技を目指す子たちも増え、学校には部活もあるといった状況になり、競技人数も増え、レベルも上がってきます。 見本となる先輩選手がいれば、成長も早まります。また、全国の高校は、夏のインターハイを部の一番の目標として、そこを目指してやってくるので、中学生までのクラスの全国的な大会や、地方の予選会とは、またもうひとつ仕上がりが違います。 そして、ロードレース中心に過ごしてきた中学生にとっては、新たにトラック競技が加わります。 トラック競技はロードと比較すると短い距離で最大出力を出さなければならない競技です。 そのためには、重いギアが踏めるような身体づくりも必要になってきます。 だからと言って、中学生のころから重いギアを踏ませるようなトレーニングは必要ありません。 高校に入ってからの成長に合わせて、しっかり身体を作っていくことが大切になってきます。

高校生からの身体づくり

冒頭で、中学生の時に、基礎的な運動能力を身につけるようお話しました。 高校生になったら、基礎体力を上げていくトレーニングを始めます。 この基礎体力とは、筋力やパワー的な身体づくりではなく、持続力や回復力を含めた総合的な力を身につける身体づくりのことです。 筋力的なものは、まず、自分の体重を自在に扱えるようになることです。そうでないのにウエイトを持つ必要はないと考えています。 腕立て、懸垂、スクワットといったトレーニングで、自分の体重がある程度思うが儘に扱えたのち、さらに負荷をかけたいという場合に、ウエイトという手法を用います。 ウエイトが万能のアイテムのようにそれをやってれば強くなる、それができればギアを踏めるということはありません。 また、ギアを踏むことに関しては、じっくり身体ができるまで待つことの重要性を実感しています。 待つべき時期に焦らず、じっくりと全体のバランスを整えながら、器というものを大きくしていくことが結果につながっていくと考えています。

自転車に必要なパワーとは?

たとえば、ウエイトは、その限られたフォームの中のパワーなので、自転車のフォームの中でパワーを出すこととは少し違っています。 ウエイトでつけた筋力を、自転車に必要なパワーとして出力すためには、コーディネーションというようなことが必要になってきます。 本来、必要な筋肉をつければよいことで、無駄に筋肉をつけても、結局はそれが重荷になるからです。 筋力=パワーだけで押し切れないことは、競輪選手を30年続けた経験(特に年齢を重ねてきて)から感じたことでもあります。 高校生の時期は、ウエイトはあまり重視していません。 股関節や体幹をどううまく使うかというところのきっかけとするために、3種類のウエイト、スクワットとハイクリーンとベントオーバーローイングをやっていきます。

高校時代に身につけたいロードとトラック競技力

ジュニアのレベルでロードかトラックかどちらかしか走れないというのは、ちょっと違うと感じています。 なぜなら、ジュニアは全体を強くしていかないといけない時期だからです。 身体の強さ、体力、柔軟性、乗車フォーム等々、様々な部分のバランスを非常に大事にしないといけません。 自転車競技のすべてに当てはまるのは、キレとスピードです。 人よりこれがあれば、すべてレースは有利に戦うことができます。 その両方を養うために、両方をやっていく必要があるのです。 ロードレースの場合は、そこまでキレとスピードはいらないかというとやはりそうではありません。 スピードはあった方が有利ですし、レースの幅も出ます。 逆にトラックレースの場合は、体力的な面の強化が必要になります。 たとえば、スプリントの場合、予選から含めて1/8‐1/4‐1/2決勝まで勝ちあがる中で何本ももがかないといけません。 その間にチーム戦(チームスプリント、チームパーシュート)も走る、ということになれば、中距離種目も予選・決勝とあるわけで、回復力が上がらないと最終的には集中力が続かなくなります。 そういう意味では、ロードでしっかりと距離を乗りこむということが必要になってきます。 このように、ロードとトラック両方の要素というのはバランスよく成長させるためには絶対的なものだと考えています。

世代を繋ぐこと

次の指導者へバトンを渡すために

高校から本格的に競技を始めれば、高校時代は3年間しかありません。指導者の立場からすると、その中で結果を出す、ということは必須ではありますが、前項でお話したように、待つべき時期に焦らず、 じっくりと全体のバランスを整えながら、器というものを大きくしていくことが一番大切だと思っています。 中学時代、高校時代と、競技を続けてきた選手たちは、所属したチームや部活動の指導者やマネージャー、食事や生活面、送り迎えなどでお世話して頂いた親御さん、勉強や生活指導でお世話してくださった学校の先生たち、各都道府県の自転車競技連盟等、競技団体の関係者のみなさんと、多くの方々にお世話になりながら成長してきたわけです。 選手たちが直接向き合っている人達だけが彼らのサポーターではないかもしれません。指導する側を支える家族や、その関係者も、陰ながら応援してくれているのです。 いままで彼らの競技人生をを繋いでくれた多くの人たちがいる、そして、またこれからも未来に繋いでいかないといけない。そのために、日々努力して心技体を鍛えてほしい。(勉強もです:笑) 次の指導者にバトンを渡すとき、生活面、競技面、すべてを含めて素晴らしい人間であって欲しいと思っています。


自転車の楽しさを感じながら身体を鍛えていく、その楽しさには、勝つことを含め、いろいろあります。
競輪人生30年、悔いなく終えることができました。そして今も、選手から指導者へと立場は変わりましたが、自転車競技人生は続いています。 自転車が大好きで、自転車競技を始めた多くのジュニア選手が、長く、自転車と関わっていけるよう願っています。 道は、いろいろあります。今やるべきことの一つ一つを丁寧に、着実に自分の力にしていってください。自分自身も、そうです。日々精進、日々鍛錬、近道はない。

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